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………………
昔、姫山の麓に美しい娘が暮らしていた。
娘の美しさを見初めた殿は、邪な想いを胸に殿中に娘を呼びつけるよう命を出し、使いの者は御意に従うよう娘に命じた。
しかし、想い人がいた娘はそれを受け入れなかった。
その夜、娘の父である長者は殿の屋敷に出向き、詫びを入れた。
しかし、命に背いた長者と娘に激昂した殿は、長者をくくりつけ、無理矢理連れ出した娘の目の前でその首を跳ねたのである。
娘は縄を打たれ、姫山山頂に送られた。
そして着物を剥がれ、古井戸に突き落とされた。
夥しい数の蛇と共に。
蛇責めに悶え苦しみながら、娘は自身の受難を嘆き、いまわの際に呪いの言葉を吐き出した。
「このような目に遭うのは、美しく生まれたが故。
後世の女性がこんな苦しみを味わうことの無いよう、これから先この山から見渡せる限りの地に生まれてくるおなごに美貌は与えぬ」
………………
「だってさ。
すっごい迷惑な話と思わん?」
私は向かい側で頬杖をついてニヤニヤ笑っている彼に吐き出した。
窓から差し込む西日に、彼の柔らかい髪はいつもより茶色く見えて、浮かべた笑みはそれと同じくらい柔らかい。
山口大学構内。
郷土歴史を調べる授業の中で、ちらっと教授が口にしたこの伝説に、他県からやって来た彼、中村寛人は興味を示した。
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