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大学のすぐ脇から聳える……というほど高くはないのだが、山口市内を一望できるであろう姫山は、大学祭の名前にもつけられるほどこの辺りでは馴染みのある山だ。
夕暮れになると、どこから湧いたのか、数多のカラスが姫山に向かって帰っていく。
「まだあるのかな、その井戸」
彼は憮然としている私を眺めながら呟いた。
「知らんよ、登ったことないし、登れるかどうかも知らんし」
鞄の中のポーチを掴み出すと、リップクリームを取り出した。
空気が乾燥している。
唇がすぐに荒れる私には必須アイテムだ。
「ああ。バイト行かんと」
リップのキャップを閉め、ポーチに放り込んで私は立ち上がった。
つられて彼も立ち上がる。
「ん、じゃ俺、サークル顔出してくる」
「……うん」
私と寛人との接点は少ない。
「今夜、行こうかな」
「ほんと?」
私のバイト先は居酒屋チェーン店。
週末ともなれば目まぐるしくて、せっかく来てくれてもアイコンタクトさえできないが、平日なら多少は顔も見れるだろう。
「待ってる」
「ん」
寛人は笑って、私の頭をくしゃくしゃと撫でた。
そして、辺りに誰もいないのを見計らい、そっと唇を重ねた。
「リップの味がする」
寛人の悪戯っぽい笑顔はいつ見ても好きだなって思う。
だけど、きっと私の顔は浮かない。
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