なぽりたん物語

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「紗希ちゃんがさ、おれと紗希ちゃんは店員と客でしかないって言ったじゃん? それはおれ、やだなぁって、思って。 んで追いかけたら、紗希ちゃんが大変なことになってて、びっくりしちゃった」 そう言う彼の言葉を聞くうちに、わたしの呼吸も楽になっていた。 彼はなおもわたしをなだめ続ける。 「おれが変わったって言うなら、それは多分、紗希ちゃんのせいだよ。 紗希ちゃんが卒業して、おれ、決めたんだ。 ちゃんとした男になって、いつか紗希ちゃんを、今度は守れる存在になれたらって。 まぁ、結局まだ、ただのプー太郎なんだけどね」 そういう彼の言葉に、わたしは首を横に振った。 彼は小さくありがとうと言う。 そして、さらに続けた。 「とにかく、折角また知り合えたんだもん。 おれ、このまま店員と客のままは、絶対に嫌。 おれにとって紗希ちゃんは紗希ちゃんだし、おれも紗希ちゃんに、はるくんって呼んでほしい。 少しでも、紗希ちゃんの特別でありたい。…だめ、かな?」 わたしはまた、首を横に振る。彼もまたありがとと呟いて、今度はしばらく沈黙が流れた。 そして、ふと、彼がおもむろに口を開く。 「ま、欲を言うなら、『泣き虫の手のかかる男の子』と『頼もしいお姉さん』じゃなくて、 『男』と『女』として、そういう風に呼びあえたらって思うんだけどね」 折角整ってきたわたしの息が、再び一瞬止まる。 その3秒後、わたしは彼の靴を踏んづけていた。 「いたたたたたたぁ!ごめんなさい調子乗りましたぁ!」 「…よし。」 そう言って、わたしは彼の靴から、自分のヒールをどけた。 同時に、ゆっくりと、彼の腕から離れる。 今鏡を見たら、ひどい顔なんだろうな。そんなことを思いながら、それはそれでいいやと思った。 「うー…同じシチュエーションでも、おれは紗希ちゃんの足、踏んづけなかったけどなぁ…」 恨みがましく言う彼の顔は、どこか昔の拗ねたような顔を残していて。 今まで詰まっていた喉から、自然と言葉がこぼれる。 「あのね、はるくん。わたしね…」 完。
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