第10章

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「本当に、こんなところでするのかい?」  男子の声がした。聞き覚えのある声だ。 「ええ、もちろん」  今度の声は誰なのかすぐにわかった。  茜ちゃんだ。  声を聞くのは本当にひさしぶりだった。あれから茜は一度も地下室に来ていない。拷問なんかには興味がないのだと、そう幸也は思っていた。なのにどうしてここへ。僕をいじめにきたんだろうか。  だが、茜の目的は幸也への拷問でないことはすぐにわかった。 「だってここなら扉の札を使用中にしとけば誰も入って来ないでしょ。それに暗いしちょうどいいじゃない」  茜の声は弾んでいた。 「でも……ここには菊池がいるんだよ」 「いいじゃない。どうせ暗くて見えないわよ」  扉の閉じるほんの一瞬、茜と一緒にいる男子の顔が、幸也の目に入った。  四組の、渡辺だった。  茜が好きだと言っていたあいつが、彼女と一緒にいる。幸也の頭は混乱した。つまり、二人は付き合っているのか。じゃあ、今からここですることっていうのは……。  最悪の想像が、幸也の頭に浮かぶ。  が、それはすぐに現実のものになった。  暗闇の中では二人が何をしているのかわからない。だが音だけで何が起こっているか手に取るようにわかった。  服が擦れる音。荒い呼吸音。粘膜が立てる音。  自分の好きだった女の子が別の男に抱かれている音が、塞ぐことのできない耳に途絶えることなく聞こえてくる。 「……いい、加減にしろよ」  小さく幸也は呟いた。  が、効果は絶大だった。二人が動きを止め、幸也の様子を窺っている。その、気配がする。きっと彼らは連日の拷問で、幸也にはもう声を出す元気もないと思っていたのだろう。はっ。 「オマエラぶちっ殺してやるううううゥゥゥゥゥ!」  幸也は手足の鎖を引き千切りそうな勢いで前に出た。鎖が激しく音を立てる。  突然の幸也の怒声に肝を潰したのか、二人は悲鳴を上げて、服を着る暇もなく慌てて地下室から逃げて行った。扉を出て行くとき、茜の白い尻が見えた。 「ははっ。はははははははっ。ざまあみろっ」  幸也は笑った。笑い続けた。慌てて逃げていく二人がおかしくて。笑った。笑いすぎた。目から何か熱いものが床に落ちた。
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