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「今日、暇?」
誰もいない教室で、比奈が一人帰りの支度をしていた。
俺はそのタイミングを見計らって、ゆっくりと彼女に近づいていく。
ゆっくりと。
だけど、俺たち二人だけの教室では。
その足音でさえよく響いて聞こえた。
彼女は振り返ることはなかった。
横顔がほんの少し見えるだけ。
無視されてるのか。
それとも気がついてない?
彼女のすぐ後ろまで近づいて足を止めた。
「今日、俺の誕生日なんだ」
顔を上げることなく、何も答えてはくれない。
それじゃあ顔が見えないんだって。
彼女が少し動くたびにサラサラと揺れる黒髪。
あの日、充の家で初めて比奈にあったときと似てるようで違う。
あの時は恥ずかしくて、真っ直ぐ見ることができなかった比奈を。
今は真っ直ぐ、こんなに近くで見つめてる自分がいる。
こうやって、比奈に触れてる自分がいる。
ポン、と。
彼女の肩に手を乗せた。
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