Ⅲ.その温もり

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「えっ…」 俺の声に、驚いた顔をした比奈がゆっくりと振り返る。 「だから、今日誕生日なの」 キョトンとしたままの彼女が可愛くて、緩んでしまいそうな口許を必死に引き締めて。 「お祝いしてよ」 彼女を真っ直ぐ見つめて、そう言った。 その上目遣いはわざとか? そう思うほど、潤んだ瞳でまっすぐ見つめてくる。 俺の顔をじっと見て何かを探ってるような、警戒してるような、そんな瞳。 パチパチと繰り返される瞬き。 少しマヌケなその顔に、また緩んでしまいそうになる口許。 「ほ、他の子に…お、お祝いしてもらえば…」 他の女じゃダメだ。 それじゃ、意味がない。
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