第1章

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それは、凍えるような寒い冬。 冷たい雪がちらつく一日の終わりだった。 舞台はかつて少女が住み慣れていたはずの町。 誰かと誰かが、声の限りに少女の名を呼んでいる。 そんなこととは露知らず、一軒の民家の前で立ち尽す少女―――。 少年はそれを目にした時、母親が今年も編みあげた、手作りにしては精度の高いマフラーに顔を埋めながら家路を辿る最中だった。 『その家に用か?見かけねぇ顔だけど』 訝しげに少女の顔を覗き込む。 顔立ちからして自分とあまり歳差がないことは分かるが、少女は子どもっぽさの抜けた落ち着きのある表情をしていた。 『キレイなお家だなって、見てただけ』と、作り物臭い笑顔で答える少女。 『お前、名前は?』 『メグム』 『ヘェ…オレ、守』 少し前に通った公園で、五人くらいの大人が血相を変えてその名を呼んでいたのを思い出す。 不振者であればこの家の親を呼ぼうと思ったが、そうでもなさそうだと分かり、後は何も言わずにその場を去ろうとした。 『ねぇ!!』 その時メグムが守を呼び止める。 さっきとは一変、振り返ったそこにあったのは、無垢な子どもの戲笑。 『この辺案内してよ!  あたし、今日一日ひまだし☆』 『ウソ言え。さっき、お前の名前呼んでる  大人がたくさん居たぞ』 『え~、うそぉ。もうバレてんのぉ?  折角ゆっくり観光しよーと思ったのにー。  せっかちなおじさんたちだなぁ。  ……あ、ねえっ!  まもる、かくまってよ』 口を尖らせてみせたと思えば、顔面に花をぱっと咲かせる。
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