5人が本棚に入れています
本棚に追加
『ああ守、やっと帰って来たのか』
やけに落ち着いたトーン。
思考停止していた頭が作動する。
『親父っ…………!』
『親…父………?』
迷う暇などない。道を選ぶ時間など、何処にもない。
少女が蛮声を上げる。
『逃げるよ!』
『でも…』
『死んだらだめ!生きなきゃダメ!!』
今にも殴り掛かりそうな勢い。
手を引く強さに驚き、俺はようやく目を覚ました。
「夢…――か」
また、”あの”夢。
夢にさえ出なければ忘れてしまえそうなのに、週に何度かは同じ夢で過去を思い出す。
ぼうっと顔を上げると、目の前にはなぜか切なそうな目をした大介がいた。
いつも元気なことだけが彼の長所なのに、いったい何があったのか。
「どうした?」
俺が問うと、ふっ、と瞬きをして、彼が笑う。
「こっちのセリフだっつうの。
そんなとこで寝るなよ」
「ん。うたた寝してたわ」
「ずいぶん長いうたた寝だな」
そう言いながら、クラブハウス前のベンチから引っ張り下ろされる。
最初のコメントを投稿しよう!