[3] カウントダウン

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【Side 悠人】 翡翠の言葉は真実だ。 何の偽りもない。 でも、頭の中では彼のその言葉より、僕の告白を遮った一言を復唱していた。 久しぶりに彼の声で聞いた自分の名前。 彼に名前で呼ばれることがこんなに嬉しいことだなんて、あの頃は思わなかった。 僕は本当に彼のことが好きなのだなと実感させられる。 僕を呼ぶその優しい声も、宥めるような話し方も、聞き心地の良い音の高さも、全て僕にのみ向けらたもの。 昔もそうだった。 翡翠の全てが自分だけのものだった。 でも、今は・・・ ***** 父の秘書や長谷の人間に調べてもらって、翡翠と風紀委員長の須賀龍音が『主従』の関係だと知ったとき、頭の中が真っ白になった。 須賀が翡翠の秘書・・・ だとすれば、奴はずっと彼の隣りにいる。 僕と彼が出会う前も、出会った時も、僕が彼を好きになった時も、彼と付き合っていた時も、別れた時も、僕が弥生に惹かれていた時も、そして、これからも。 でも、フと思い返す。 アイツは翡翠に敬語など使ったことがない。 少なくとも僕らの前では。 それが演技だとしたら、僕らを騙すためだとしたら、奴は一体何を考えている。 葛城の秘書なくらいだ、相当頭はキれるだろう。 弥生が来てからの翡翠の表情を見て気づいたこと・・・ 彼は、今の状況を楽しんでいる。 彼が楽しむのは、所謂『暇つぶし』。 その暇つぶしの要素を与えているのが、おそらく須賀龍音その人物だ。
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