[3] カウントダウン

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【Side 悠人】 もちろん生徒会室は開かなかった。 でも、まさかそこに彼がくるとは思わなかった。 きっと彼は風紀室に向かっていたんだと思う。 あそこは2人っきりで会うにはちょうどいい場所だから。 声をかけられた時はびっくりした。 そして、今はもう呼んではくれない呼び方が恋しくなった。 彼に、翡翠に、呼んでほしい。 その優しくて暖かい声で。 『悠人』 と…… そんな思いが溢れて声になって出てしまったのに気が付いたのは、彼がそれに対する答えを出したとき。 悲しくなった。 彼から離れたのは自分自身。 それでも彼を想ってしまう自分が情けなかった。 彼が、彼の温もりが、全てが欲しくて仕方なかった。 中に入らないか聞いたら、あっさりと鍵を開けてくれた。 久しぶりの生徒会室は以前と全くかわらなくて、僕たちの思い出が思い起こされる。 給湯室でコーヒーを淹れ彼の座るソファーに持って行けば、彼は僕のコーヒーは久しぶりだと言った。 何故か『僕の淹れた』という言葉が気になった。 彼はそこまで意識などせずに言ったに違いない。 だが、僕の中でそれは上手く処理できなかった。 須賀と僕を比べられてるようで、須賀の事を秘書だと言うことで自分を納得させようとした。 すると、今度はその須賀を庇うように僕の名を呼ぶ彼にムカつき、繰り返し須賀を秘書と呼んだ。
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