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【Side 悠人】
もちろん生徒会室は開かなかった。
でも、まさかそこに彼がくるとは思わなかった。
きっと彼は風紀室に向かっていたんだと思う。
あそこは2人っきりで会うにはちょうどいい場所だから。
声をかけられた時はびっくりした。
そして、今はもう呼んではくれない呼び方が恋しくなった。
彼に、翡翠に、呼んでほしい。
その優しくて暖かい声で。
『悠人』
と……
そんな思いが溢れて声になって出てしまったのに気が付いたのは、彼がそれに対する答えを出したとき。
悲しくなった。
彼から離れたのは自分自身。
それでも彼を想ってしまう自分が情けなかった。
彼が、彼の温もりが、全てが欲しくて仕方なかった。
中に入らないか聞いたら、あっさりと鍵を開けてくれた。
久しぶりの生徒会室は以前と全くかわらなくて、僕たちの思い出が思い起こされる。
給湯室でコーヒーを淹れ彼の座るソファーに持って行けば、彼は僕のコーヒーは久しぶりだと言った。
何故か『僕の淹れた』という言葉が気になった。
彼はそこまで意識などせずに言ったに違いない。
だが、僕の中でそれは上手く処理できなかった。
須賀と僕を比べられてるようで、須賀の事を秘書だと言うことで自分を納得させようとした。
すると、今度はその須賀を庇うように僕の名を呼ぶ彼にムカつき、繰り返し須賀を秘書と呼んだ。
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