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【Side 悠人】
やはり翡翠は大人だ。
僕よりも全然。
僕の言葉に怒りの顔を向けたものの、自分を抑えて話をすり替えた。
いや、元に戻したの方が正しいか。
僕が黙ると、彼はコーヒーを置いて立ち上がってしまった。
見つめるカップに、コーヒーは残されていて。
僕と翡翠との距離を感じた。
「翡翠」
横を通り過ぎる彼の名を呼ぶ。
今言わなければ、この先言えなくなる。
そう思った。
だから、思い切って言葉を続けた。
なのに……
そんな、優しい声で、僕の好きなその声で……
それは反則だよ。
言葉を詰まらせるしかない。
嬉しさと切なさが入り混じる。
「翡翠……」
もう一度名を呼んだその声には僕の訴えが詰まっていた。
我ながらそう思う。
でもそれは小さすぎて、同時に言葉を発した彼には届かなかった。
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