943人が本棚に入れています
本棚に追加
そのまま夏休みに入ると、俺は社長の引き継ぎで忙しくなった。
会社の社員や重役にはもともと言ってあったらしく、快く迎え入れてくれた。
俺の秘書にはもちろん龍音がついている。
会食に会議、いろいろと仕事はある。
「そうだ、翡翠。お前に婚約者をと思って声をかけておいた娘がいてな。今度食事してきなさい」
急に言い出した父。
俺に見合いをしろって・・・。
俺の斜め後ろにいた龍音も驚いた顔をしている。
「お前もそろそろ嫁を貰った方が良いだろう」
息子のためといって莫大な金を使い豪華な学園を作り上げ、あっさりと社長の座を譲った男だ。
会社より息子の幸せを選ぶただの父親。
そんな父が、俺は嫌いではない、むしろ好きだし、尊敬しているが、だからと言って絶対に言うことを聞くというわけではない。
「結婚はまだ考えていません。学園を出たばかりで、社長の職に就き、社員や重役の信頼を得るまでは、仕事に没頭したくて」
そう言えば、父はそうか、とあっさりと引いた。
そういうさっぱりとしたところも結構好きだ。
本当はいまだに悠人とのことを引きづっているのかもしれない。
ちらりと龍音を盗み見れば、しっかりと目が合ってしまった。
俺がそうすることが分かっていたかのように微笑み頷く彼。
本当に、秘書とはわからないものだ。
最初のコメントを投稿しよう!