01.ハジマリ、ハジマリ。

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…と、言っていたら… 本当に、おじさんが帰ってきた。 「…沙彩、慎太郎くん?」 「パパ!」 「あ、こんばんは…おじさん」 …何にもやましいことはしていないのに、少しドキドキしている。 「またお前は慎太郎くんを困らせて…」 「そんなことないよぉー!」 「じゃあ…俺はこれで。 塾があるので」 「あぁ、悪いね…引き止めて。 今日も沙彩を送ってくれてありがとう」 「いえ。 では…」 「また明日ねー、慎くんっ」 沙彩に軽く手を振って、おじさんには会釈。 お馴染みになっている挨拶。 …さて、塾に行くか。 先程歩いて来た道を、駆け足で戻る。 塾と、沙彩の家は正反対の方向だから。 それを友達に言うと、決まって 「すげーな、お前。 よくやるよ」 「面倒くさくねーの?」 「他の女の子と付き合ってみ? 今自分がやってる事が馬鹿らしくなるぞ?」 そう言われる。 でも。 俺は、沙彩を捨てて他の女の子と付き合うとか、今は考えられない。 もし。 もしも、沙彩が他の誰かを選ぶというのなら、背中を押してあげる自信はある。 そんな関係なんだ。 俺たちは。
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