8054人が本棚に入れています
本棚に追加
【1】
2月初旬の冷たい風は、微かに雨の香りを含んでいた。
渋谷のハチ公前で、身体を震わせていた城野真紀が、右手を挙げた。
「ごめんね。 遅れて……」
小走りに駆けてきた小川ルミが息を弾ませて言った。
「私も今、着いた所よ……」
「本当?」
「そうよ……」
「道玄坂を少し登った右手にある焼き肉店が美味しいよ。
昨日、給料日だったから今日はお腹一杯食べてよね」
「ルミは、また私だけ太らせるのね」
『キャハハ……』
「わかるんすか」
「分かるわよ」
そんな他愛ない会話を2人は交わしながら
道玄坂方面へ歩いてゆく。
最初のコメントを投稿しよう!