第1章

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いつ頃だっただろうか。 あいつが俺の前に現れたのは…。 たしかその日は、天気も良くて、ドライブにはもってこいの日だった。でも、俺は車なんて持ってなかったから、家から少し離れたところにある運動公園の散歩道でぶらぶらと、景色を見ながら歩いていた。 (…今度書く話、全っ然思いつかねぇ…) 実を言うと俺は作家で、毎月発行される短編小説をまとめた雑誌で、今、話を書かせてもらっている。 まだまだ売れない、しがない作家だ。これでも話を書き続けて10年はたつけど、なかなかニーズというものについていけなくて、話の内容にはいつも、いつも、頭を悩ませる。 書きたいものを書くのが作家。でも、それが誰かの興味に訴えるものでなければ、書きたいものを書いて自己満足していても、生活していけないのだ。 (はぁ…) こんなにうららかな日に、こんなに頭を悩ませ、俺とは対照的なさわやかな風を浴びて、散歩をする。 1日、1日が早く過ぎてしまう。 そろそろ俺にも焦りが出てくる頃だった。 桜並木の遊歩道でとぼとぼと歩いていると、ぽすっ…と俺の頭に何かが落ちてきた。 足元をみると、そこには俺が昔いつも持ち歩いていた小さなメモ帳が落ちていた。 「どうして…これが…?」 これは俺がまだ、作家としては駆け出しだった大学生の頃のもので、俺の大親友だったやつにあげたものだった。 * 「よっしーはさ、作家になって何書きたいの?」 「何って…。俺は書きたいものを書く!!」 はははっ…と隣で笑うやつ。俺の大親友だった畑中 大樹。 大学2年の時にバイク事故で死んでしまった俺のダチ。 「そういう大樹は、なりたいものとかあるのか?」 「あるよ!有名企業に入って、偉くなって、よっしーを養えるぐらいの貯蓄をすること!」 それはなりたいものではないような気がするけど…と内心は思いつつも、大樹の夢にふと疑問を持った。 「俺を養うって?」 「よっしー作家になるんでしょ?お金とか不安定じゃん。だから俺が、よっしーの同居人になって、養ってあげるの!」 「俺、社会人になってまで、お前の世話にはなんねーよww」 まぁ、これは本当のことになってしまったけど。 「えー?よっしーは社会に出たら、俺のことなんか捨てて、女の子と一緒になっちゃうの?」 「は?それが当たり前だろー?まぁ、お前のことは捨てたりしねーよ。」
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