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材料を計量して、バターを溶かして混ぜるだけ。
ジッと手元を観察されるのは、変な気分。
気が散る。
「あっちで待っててくれていいですよ。テレビでも見てたらどうですか?」
「テレビよりもみゅーのがいい。」
うん、言われて嬉しくないことはない。
でも、居心地が悪い。
もしも、課長がお料理をしない人ならそこまで居心地も悪くなかったのだろうけれども、主婦レベルの高い課長に見られてると思うと正直、やりにくい。
グルグルとボールの中身を混ぜて、フライパンに薄く油を引いて・・・。
濡れ布巾の上で、フライパンをジュッと冷ましてもう一度火にかけて・・・。
「なー、なんで濡れ布巾の上でジュってやんの?」
「・・・熱が均一になるようにって書いてありましたけど。作り方に・・・。」
「ふーん。そっか。」
フライパンの上にホットケーキのタネを流し込んだら、待ってましたと言わんばかりに後ろから羽交い絞め。
嬉しいです。
嬉しいですよ、もちろん。
「たまんねー。クララが立ちっぱなしで困るなー。」
言わなくてもいいのに。
「私、作ってますからアチラで処理してきたらいかがですか?」
「バカヤロ。臭うって言われたら嫌だからやめておく。」
臭うって言わなければやるのかと思ったらおかしくなってきて、羽交い絞めされたまま笑った。
「笑うんじゃねーって。」
「いや、臭うって言いませんからどうぞ、処理しちゃってくださいよ。あははっ。」
「ふんっ。やめとく。ここでみゅーの笑った顔を見てる方がいい。」
そういって、羽交い絞めを解放してくれたと思ったら、私の顔を後ろから覗き込んでくる。
化粧もしてない、しょぼい30代女子の顔なんだけどな・・・。
それでも、私の顔を見て笑ってくれるんだから、まぁいいか。
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