ステップ9

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俺がひっくり返すと言うから、フライ返しを渡したら、まだ焼き方が足りなくて、ぐちゃっとひっくり返ったホットケーキ。 下手。 「俺のレベルまで到達してないホットケーキだったな。」 わざとらしく前髪をかき上げて恰好つけてるけど、笑えただけだ。 「そのレベルの足りないホットケーキ、私が食べますからね。」 「俺の作ったのが食べたいのかよ。」 つつかれて、聞かれて、いつもだったらきっと可愛げのないことを言ったんだろうけれど。 何だろう。 数日後にはいなくなることが分かっているからなのか、合体効果だからなのか。 「そうですね。」 素直に言葉が出てきた。 「じゃ、俺はみゅーの作った真っ黒焦げがいいなー。」 真っ黒焦げって・・・。 仕方がないから、火力をアップして焦げたホットケーキを作ろうかと思ったら、止められた。 「バカヤロ。わざと真っ黒焦げにすんじゃねーって。」 「いやいや、だって、食べたいんですよね?」 「ちっ。明日の夜、がっつり食ってやる。ホットケーキじゃ足りないくらい、甘くて美味しいみゅーちゃんをな。くくくっ。」 ・・・言い返せれません。 嫌なわけじゃない。 でも、いいわけでもないかもしれない。 出血は止まったけれども、また出るのかなと思わないわけではない。 痛くて熱くて甘い行為を思い出したら、何も言えなかった。 「嫌なら食べないぞ。」 頭に乗った課長の手。 嫌なわけではないから、首を横に振ったけれど。 心中複雑ナリ。 楽しくご飯を作ったり、遊んだりしている間はどうってことないのに、ふと我にかえる時間ができたりすると私の心の中に出現する砂時計。 残りの砂がどんどん、どんどん、下に流れ落ちていく。 ずっと大阪に行きっぱなしになるわけじゃない。 帰ってくる人だとわかってるのに。 2週間後に大阪に遊びに行く約束だってしてるのに。 それでも、砂時計の砂が落ちていくことに焦りに似た気持ちになる。 課長が大阪に行ってから、夏休みになるまでの時間、ちゃんと過ごせたのに。 我慢・・・我慢していたかどうか、分からないけれどもそれなりに過ごせていたのに。 この気持ちはいったいなんだろうと、初めて体験する気持ちの持って行きどころのなさにも困る。
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