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薄暗い公園。
誰もいない。
当たり前か、もう、夜だし。
課長がブランコの方へ、私を引っ張っていくから嫌な記憶がよみがえる。
無理やり二人乗りして気持ち悪くなったんだっけなと。
「二人乗りは嫌ですよ。」
先制パンチ。
「しねーし。」
宣言通り、お互いにブランコに座った。
隣同士。
キィキィと金属音がする。
近所迷惑になるほど響いてるわけじゃないけど、微かに聞こえるキィキィという音を聞きながら、何でこんなところに来たんだろうと思った。
公園の真ん中と入口付近にある街灯の光。
住宅地だから、まわりの家から漏れる光。
明るいとは言えないけれども、目は暗さに慣れるからまわりが見えないこともない。
「みゅーうー、お前さ、弱音、吐かねーの?」
「まだ、吐かねーです。」
私の言葉に、課長がふっと笑った。
「正直者め。まだ、か。」
本当は、言いたいと思うときもある。
でも、吐かない。
まだまだ頑張れる余力のあるときに吐くのは嫌だ。
「酒井さんは、吐かねーんですか?見たことねーですよ。」
「あー、どうだろ。いつか吐くかもな。」
二人とも、まだ吐かないらしい。
そして、いつか吐くかもしれないらしい。
「リバースですね。」
「バカヤロ。なんかきったねーだろ。」
「けーごさんが吐いたら、ちゃんと掃除してあげますよ。」
「ふんっ、俺も美由紀が吐いたら全部受け止めてやる。」
「はははっ、なんかきったねーですね。」
キィキィと小さな金属音がする中で話したことは、これだけだったりして。
暗い公園まで来て、やっと素直に心の中を吐き出せるのか、私と課長は。
お互い、うまくやってるようで、そうでもないのかな。
しばらく無言でブランコに乗ってたけれども、
「よっ。」
とブランコから降りた課長が私の方まで来たから私もブランコから降りた。
「不審者って通報される前に帰るか。」
「ふっ、痴漢の次は不審者ですね、はははっ。」
私の軽口に課長が笑った。
「バカヤロ、お前が助けてくれなかったらマジで不審者になっちまうだろ、笑うんじゃねー。」
「犯罪者になっても、ちゃんと出所を待ちますから。」
「バカタレ」
いつも通りの軽口を叩いて、それでも、心と心がほんのちょっぴり寄り添った気持ちになって課長の家に戻った。
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