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寝室のパイプハンガーに課長がいうその服がかけられていることはずっと気が付いていた。
先週、酔っ払って脱いだ服を課長がかけておいてくれただろうって容易に想像が出来たから。
だけど、その服を夏休み中に着用することにはならないだろうと思って、目の端に映ってもスルーしていたんだった。
ムチムチの体に二の腕の出たノースリーブのシャツ。
スリットの入ったスカート。
いかがなものだろうか。
やっぱり、ちょっと恥ずかしい。
着替えて、コソコソと居間に出て行ったら、バッグを渡された。
「いいねー。ほら、行くぞ。味噌カツ味噌カツ。」
私を一瞥して、いいねーとニコニコしたと思ったら早く行こうとばかりに玄関方面に押しやられる。
仕方がないから玄関で先週この服を着てきたときに履いたミュールを履いて、外に出た。
課長も、スーツケースをゴロゴロやって出てきたと思ったのに。
「忘れ物してきた。ちょっと待ってて。」
一度は外に出てきたのに、スーツケースを置いて中に戻って行った。
開けっ放しの玄関から課長のお宅の中が見える。
課長の姿は隠れてしまって見えないけれども、課長の匂いが中から外に出てきてるような気がする。
この匂いを嗅ぐのはいつだろうか。
淋しいと思ったら、こっそりと匂いを嗅ぎに来てもいいだろうか。
匂いを嗅いだら、余計に淋しいと思うだろうか。
あっ、出てきた。
何も持ってない気がするけど・・・?
「わりーわりー。行こう。」
「あれ?忘れ物は何だったんですか?」
「ん?何でもない。たいしたことじゃないから。」
玄関ドアを閉めて、ドアを押し付けて鍵をかけてる。
見る度に思う、大家さんに言って直してもらえばいいのに。
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