ステップ11

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運動会前に、走るのが遅い私のためにタカちゃんが走る練習をしてくれたこと。 公園で、カールルイスになりきったタカちゃんが私の走り方がまずおかしいと言ってジョイナーを目指せと言いだしたこと。 そのときのタカちゃんは、アメリカ人になりきっていたこと。 私の話を聞きながら、笑いをかみ殺すような顔をする課長。 「待った、もういいから。笑えて食が進まねーし、みゅーも食べろって。」 しまった、一生懸命に話していたら、箸が止まっていた。 美味しい美味しい味噌カツを食べないと。 サクッとした衣の中にある立派なロース肉。 噛みしめると肉の脂がギュッとでてきて。 衣にかかる味噌ダレとあいまって、危険な美味しさだ。 泣く子も黙る。 いや、泣く子も笑う。 美味しさで。 「すっげー美味そうな顔して食べるよな。」 微笑まれて、照れます。 食いしん坊万歳です。 「美味しそうに食べるヤツっていいよな。俺、食べれないヤツ、嫌なんだよね。農家の子供だからかな。」 私のダイエット大作戦へのけん制でしょうか。 いや、ダイエット大作戦には気が付いていないはずだ。 食べないダイエットに取り組んだ覚えはないんだから。 「農家の子供は美味しい物を食べてそうですね。グルメでしたか?」 「グルメじゃねーし。素材を生かすに決まってんだろ。」 うん、決まってるって言われても分からない。 でも、農家で素材を生かしたご飯を食べていたら、それこそ本当の贅沢じゃん。 お箸が進む。 ご飯を食べて、味噌カツを食べて、課長はすでに食べ終わった模様。 やっぱり、カールルイスやらジョイナーの話をしていただけに、私の方が食べるのが遅い。 流れる演歌と微妙な冷房。 ゆっくりと時間が流れているような気がする。 「時間、あるからゆっくり噛んで食べろよ。」 「はい。」 子供じゃないんだから・・・と、思う気持ちと、子供のように扱われることにちょっと嬉しい気持ちと。 お姉ちゃん体質だから、子供扱いされるよりもお姉ちゃん扱いされてきたんだ、私。 だから、世話を焼かれることに慣れてない。 そして、私は課長に世話を焼かれることが大好きだ。
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