ステップ11

13/17

5300人が本棚に入れています
本棚に追加
/439ページ
「食べながら聞いてろよ。こっち、見んな。」 声をかけられたら、見るでしょ、普通と思ったけれども見るなと言われて残り半分のご飯と味噌カツに目を戻した。 「二人でいるのに仕事の話を混ぜてわりーんだけど、2週間後にみゅーが来るだろ?その次さ、またみゅーが来るって言ってたよな?」 見るなと言われていたから、下を向いたままですが・・・咀嚼しながら頷いた。 課長と大阪、食い倒れ。 新喜劇も見たければ、テーマパークも水族館も小さな山にも登ってみたい。 ガイドブック片手に行きたい場所や、やりたいことのチェックには余念がありません。 「9月営業、多分厳しくてさ。土曜日も出社するかもしれねーから、みゅーの行きたい場所に一緒に出掛けられねーかも。」 なるほど。 そんなことか。 大丈夫。 そりゃ、ちょっとは、いや、けっこうな感じでガッカリしたけど。 だから大阪には来るなと言われたわけじゃない。 顔を見つめた。 見るなと言ったのは、悪いと思ってたからに違いない。 ほら、私、笑いな。 大丈夫だって、笑いな。 「仕事が終わった後は串カツ屋で一杯ひっかけましょうよ。大阪の串カツ屋さん、行ってみたいんですよね。昼間は私、一人で梅田の阪急デパートとかで大阪限定の食べ物を物色したりしますから心配ご無用ですよ。」 言えた。 内容が全部、食べ物に直結してしまったのが体格とあいまって残念具合が高いけど、むしろその方が安心でしょう。 「バカヤロ。そこは、淋しいって言えよ。その男前な解答で惚れ直しちゃっただろ。」 テーブルの下で愛情たっぷりに軽く蹴られた足と課長の笑った顔を見て、ご飯を再開した。 惚れ直しちゃっただって。 むずむずする。 「やっぱり、課長は仕事をしてるときが一番ですね。」 「バカヤロ、今は課長じゃねー。」 「あぁ、大阪営業所の副所長でしたっけ?」 「そういう意味でもねーだろ。分かってて言うなや、バカタレ。」 「けーごさんは、照れてるときが一番ですね。」 言ってみたら、照れた。 そして、さっきと同じように愛情のこもった軽い軽い蹴りを私のゾウさんのような足にお見舞いしてくれた。
/439ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5300人が本棚に入れています
本棚に追加