ステップ11

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全部キレイに食べ終えて、お冷を一口。 まだ、氷が溶け切ってないだけあって冷たい喉ごし。 もう一口。 小さくなった氷が揺れる水面。 コップをテーブルに置いたら伸びてきた白い物体。 絶対に、口元、汚れてないと思うんだけど、拭われるのが嬉しい気持ちが勝るから不思議だ。 「キレイになったぞ。」 「・・・ありがとうございます。」 頼んでないのに・・・と思う気持ちと嬉しい気持ちと。 壁にかかる時計をチラリ。 あと三十分ですか。 巨大な砂時計は出現しないけど、あと三十分という現実が目の前にある。 伝票をとったのは課長で、今日も課長が払うことは決定らしい。 荷物を持って課長の後ろに続く。 二人分のお会計を済ませた課長と山本のおばちゃんに 「ご馳走様でした。」 と伝えてお店を出たら、あとはもう行先が新幹線のホームしかない。 ふぅっと一息、空気を口から吐き出した。 溜息ではない。 「行こう。」 課長の手が私の手を握った。 温かい。 大きくて、温かい。 この温もりを次に感じられるのは2週間後。 自分で決めたことだ。 毎週のように行きたい気持ちももちろんあるけど、来週は乙女ちゃん。 そんなときには、行きたくない。 行きたいのに行けれない。 複雑な気持ち。 さっき、課長が9月営業のことなんて言うから、お休み気分だった頭の中にちょっと仕事のことが浮かんでる。 今月の達成は間違いないけど、来月かぁと。 階段を登りながら課長が笑った。 「無言だったところでの溜息って、そんなに俺と離れるのが淋しいのかよ?」 からかうような口調。 「・・・いや、普通に課長が仕事の話をしたから、来月営業かぁと思ったと言うか。長い長い夏休みの後って仕事に行きたくないなって思うと言うか。土日の後の月曜日だって軽く憂鬱なのにって言うか。」 無言で私の言葉を聞いてる課長が笑い出した。 「バカタレ。そこは淋しいって言う場面だろ。」 ・・・そうかもしれない。 「はははっ。失敗しましたね。」
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