ステップ11

15/17

5300人が本棚に入れています
本棚に追加
/439ページ
入場券を入手して、課長と一緒に新幹線のホームへ。 凄い人。 故郷や行楽地から帰ってきた人が多いんだろうか。 きっと、そうだよね。 明日から月曜日。 子供は夏休み中でも世の中がまた通常営業を始めるんだから。 「なんか飲む?つっても自販機だけど。」 「いや、いらないです。」 人の多さに無言になるのか、淋しいから無言になるのか。 やっぱり、淋しいから無言になるんだろうなぁ。 でも、せっかく一緒にいられる貴重な時間なのに。 何か、話をしていたいのに。 どうして、何も浮かばないんだろう。 どこもかしこも人、人、人。 「みゅー?」 呼びかけられれば、精一杯の笑顔を張りつかせないと。 「何ですか?」 心配そうな顔をして私を見下ろす課長の顔が笑った。 大丈夫。 私は大丈夫。 「感動的な別れを演出してここで盛大に抱き合っとくか?」 「ふっ、やめておきます。」 「そっか、残念。ミギーが分かれを惜しんでるぞ。」 私と手を繋いでない課長のミギーの動き、どう見ても怪しいよ。 何かを揉む仕草にしか見えない。 この前、大阪に行く直前に新幹線が来て乗り込む直前に私を抱き締めて私の胸を揉んできたことを思いだした。 バカバカしい。 パイパイじゃなくてバイバイ 本当にバカバカしかった。 だけど、笑ったっけ。 ダメだ、思い出したら、涙が出そうになってきた。 バカバカしかったはずなのに。 口元に力を入れて、歯を食いしばって、課長から見えないように、心持ち顔をうつむかせて溢れそうになる涙をダムが決壊しないように、そうっとそうっと深呼吸してやり過ごそう。 「そんな顔して我慢するくらいなら泣いておけよ。」 抱き合うことを拒否したはずなのに、私は課長の腕の中に抱き締められた。 「ぐぇっ・・・。」 もうちょっと色気のある声ってあるだろうと自分でも思うのに、カエルが潰れたような声が出て、その後はボロボロっと涙が止まらなくなった。 たったの2週間の我慢なのに。
/439ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5300人が本棚に入れています
本棚に追加