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「ちっ、もうきやがったか。混んでるんだから1時間くらい、遅れてくればいいのにな。」
事故でも大雨でも大雪でもないのに1時間も電車が遅れるわけがない。
外国ならいざ知らず、ここは日本だ。
離れたくない。
離したくない。
繋がれてる手を一瞬、強く握った。
それから、手を離した。
大丈夫。
バカ殿様な課長のおかげで涙はすっかりひいたし、笑って見送れそうだ。
「満員ですよね?痴漢と間違われないようにしてくださいよ?」
「バカヤロ。指定席だ。」
「いや、ほら、おトイレに立ったときとかに。近くにいないと、助けてあげられませんから。」
「ぶっ、バカヤロ。」
爽やかに笑う課長。
その顔を目に焼き付けた。
課長が出入り口のところに立った。
もう、お別れだ。
「気を付けて帰れよ?」
「そっちも、気を付けて下さいよ?」
「あー、ミギーが別れの挨拶してないってよ?」
右手を揉み揉みさせる課長に白い目線ビーム。
「昨日、済ませましたよ、バカタレめ。」
課長の使う愛情いっぱいの『バカタレ』にはきっと及ばないだろうけれども、私の言葉を聞いて
「確かに。」
と笑った顔を見ていたら、ドアが閉まった。
ドアの中で、ミギーを揉み揉みさせてからバイバイと手を振る課長に精一杯の笑顔で私もバイバイと手をふった。
泣かずに元気に見送るはずだったのに、涙が溢れてきて、新幹線も課長もにじんでしまった。
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