5300人が本棚に入れています
本棚に追加
/439ページ
どーんとした腰の痛みを感じつつ出社したのは金曜日。
本来だったら、明日と明後日がお休みなのだから気持ちも体も軽いところだろうけれども、乙女ちゃん二日目の私には厳しい。
どんよりとした気分を抱えたまま出社したけれど、ちょっとぐらいの体調不良で仕事に支障をきたしては、オツボネーズの名に恥じる。
気合いを入れて、書類整理から取り掛かった。
いつも通り。
「お電話ありがとうございます。」
いつも通りに定型文な挨拶をして相手の話を聞こうと思ったら。
「お疲れ様です、新藤さん?係長って今、お手すき?」
課長の声だ。
ちょっとびっくりして、胸が鳴った。
「あっ、もうちょっとで電話を切りそうな雰囲気なんですけど。折り返しましょうか?」
「あー、じゃぁ、待つからいいよ。もうちょっとなんでしょ。で、仕事どう?達成、見えてる?」
まさか、課長からの電話をとってしまうなんて思ってもみなかったから、胸の動悸がおさまらない。
仕事中、仕事中。
「はい、見えてます。そっちは、どうですか?」
「ギリギリ。やばそう。来月はもっとピンチな感じ。でも来月厳しいのは多分、そっちもでしょ。予算がデカいから。新商品の投入か部長決済で値段を落とすかして売上伸ばさないとヤバイっしょ。」
毎年のことですよね、それって。
そう思いながら、束の間、課長との会話を楽しんだ。
「あっ、電話、終わったみたいなんで替わりますね。」
保留を押しつつ。
「係長、4番、課長からです。」
「ありがとう。」
にこやかに笑ってお礼を言って電話を取った係長を見て、素敵だなと思った。
眼鏡の奥の優しい目。
ここ最近の係長は、前にも増して優しい雰囲気を漂わせている。
やっぱり、お子様が生まれると違うのだろうか。
「新藤さん、課長、なんか言ってました?」
こそこそと探りをいれてくるのは水谷君だ。
「主任がサボってるみたいだから、そっちに戻らないきゃけねーか?・・・なんて言ってなかったから大丈夫だよ。」
「うわっ、マジでビビらせないで下さいよ。」
軽口を叩いて、またお互いに自分の仕事に戻る。
いつも通りだ。
最初のコメントを投稿しよう!