ジャンプ1

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仕事も会社も嫌じゃない。 やりがいだってないわけじゃない。 営業3課にうつってからは、ますますその気持ちにウソがなくなった。 必要とされてると思えれば、頑張れる。 だけど、課長の席に座る人がいないだけで、ぽっかりと大きな穴が開いてるのを感じてる。 今月の達成は見えてるけれども、来月営業は厳しい。 昼間の課長の電話が、係長と来月のことを話しあっていたことは明白で。 聞こえてくる会話の端々に、誰も口にはしない課長が不在であることの不安感がにじみ出てるような気がした。 にっこりと笑って 「ありがとう」 と言ってくれる係長は、我々3課のメンバーを不安にさせないように精一杯余裕を演出していてくれるのかもしれない。 もしかすると、今まで気が付いていなかっただけで、課長だって3課になってから不安に思う日々を過ごしていたのかもしれない。 いきなりの課長職。 戸惑わないわけがないんだから。 だけど、思い返してみると、私も水谷君もきっと係長も。 課長の下で仕事をしてることに不満を溜め込んだり、不安になったり、仕事が嫌でたまらなくなったりしたことなんてないんじゃないだろうか。 それは、課長が我々を不安にさせないように気を遣っていてくれたからなんだとふと思った。 帰りの電車で、ガラスにうつる自分の顔を見ながら、昼間の係長の 「ありがとう」 と笑って電話を取ったあの仕草が頭から離れない。 あれって、課長もやるよなと。 「ありがと。」 そう言って、取り次いでくれた人にちょっとだけ笑顔を見せてから電話に出る。 余裕のないときは違うかもしれないけれども、余裕のあるときは必ずやってたような気がする。 当たり前だと思っていたけど、多分、当たり前じゃない。 あえてそうしようと思わないと、あのワンクッションのアクションはできないはず。 大きいなぁ。 素直にそう思った。 係長も、課長も、大きいと思う。 年齢的には私も係長の次、なんだよね。 それなのに、追いつけない。 同じように仕事をすることがすべてじゃない。 それは分かる。 私には、私の仕事があって、男性陣の仕事とは違った種類のものだってのも分かる。 だけど、私も二人みたいな余裕を持てたら、もっと円滑にまわるんじゃないだろうか。 課長が戻ってくるまでに、私生活だけじゃなくて仕事の面でだって大きくなっていたいな。
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