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中野さんは、いつも雑誌の印刷でお世話になっている印刷会社の営業さんだ。
この時期に中野さんが編集部に来るなんて珍しいな、と思いつつ頭を下げると
「営業の新人が入ったんでご挨拶に来たんです」
と、彼の隣で同じようにスーツを着た、二十代前半のまだ初々しい雰囲気の男の人を紹介してくれた。
「はじめまして、北日本印刷の大下です」
「あ、ありがとうございます。TRIFLE編集部の平井です」
丁寧に差し出された名刺を両手で受け取り、慌てて私もポケットから『月刊TRIFLE編集部 平井由依』と印刷された自分の名刺を取り出す。
「あー、噂の平井さんですか!なんだ、話よりずっと可愛いじゃないですかぁ!」
大下さんは名刺に書かれた名前と私の顔を交互に見比べて、嬉しそうに笑った。
新人の営業さんかー。
若いなー、新卒だとしたら5歳は年下になるのか……。
彼の無邪気な様子に、思わず自分との年齢の差を計算してしまう。
今時のちょっと長めの髪に、まだ着慣れてなさそうな、でも清潔感のあるスーツ姿の彼。
……って。
今、『噂の平井さん』って言った?
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