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「おはようございまーす。平井さんお茶どーぞ!」
ふわふわしたマシュマロみたいな甘い声が聞こえてきたな、と思いデスクから顔を上げると、目の前に私愛用の大きなマグカップが差し出された。
「あ、デガワありがと」
嗅ぎ慣れないふんわりとさわやかな香りと湯気をたてるそれを両手で受け取りながら、声の主の方を振り返ると、そこに立っていたデガワは、ピンク色のグロスが塗られた小さな唇を尖らせて不満げに私を睨んだ。
「平井さん!デガワって呼ばないでくださいって何回言ったら分かってくれるんですか。
あたし自分の苗字かわいくないから嫌いなんです!
愛って読んでください」
この編集部で一番若い女の子、契約社員の出川愛。
いかにも女子って感じの、かわいらしい子だ。
ふわりと巻かれた柔らかい茶色のロングヘア、白いシフォン素材のブラウスに動くたびひらりと裾が揺れる膝上のスカート。
3メートルもダッシュ出来なさそうな、華奢なデザインのヒール。
男の子が好きそうな鼻にかかる甘えた声と、語尾のあがる喋り方。
ちゃんと毎日綺麗な格好してえらいなぁ。
私なんて化粧するのもめんどくさいのに。
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