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気づくと、権兵衛は手のひらに雪を乗せ僕の前に立っていた。
「俺には菓子の味もこの雪の冷たさもわからないんだ。君に会って、どんなものか知ってみたくなったよ。母親に抱かれる感覚に、美味い手料理。君はもう修理済みだ。壊す理由はなくなったんだよ」
権兵衛は僕に手を差し伸べ、立ち上がらせてくれた。再び目の高さが合ったら、互いの泣き顔が可笑しくて僕等は笑った。
「……もう、行くのか?」
「出会いもあれば別れもあるもんだ」
「……二度と会えないのか?」
「うーん、俺の勘だと九十九パーセントは会えないな」
また涙が出てしまった。権兵衛は呆れ顔で笑った。
「欠伸でもしたのか?」
「そうだよ、欠伸をしただけだ」
僕は笑いながらそれを拭った。
「確率は〇じゃないから大丈夫、そうだろう?」
「あはは、そうだね。俺がもしこの世に生まれたら可能性はあるかもしれない。こんなことしている記憶も、君との思い出も忘れているだろうね。どんな生き物になるのかは君のご想像にお任せするよ」
僕等は握手を交わした。わずかな間だったが、常に自分の傍にいてくれた友との別れに対し、なかったはずの悲しみの感情が込み上げてきた。
「見つけてやるさ、お前がどんな姿になっても」
人の感情を手に入れた僕は、誰もいない堤防で独り月夜を見上げた。
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