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姫希は妙な胸騒ぎを感じていた。
それは漠然としたもので、いわゆる〝虫の知らせ〟、と呼ばれるものだった。
紅理事長は〝最強の魔法使い〟を前にしても、一歩も退く様子を見せなかった。
その様子が、姫希の心に不安をもたらしていた。
階段を降りきってしばらく走ると、零と一華が見えてきた。
二人に駆け寄る。
「零、君……、大丈夫ッ?」
「う……?」
虚ろな瞳で零は姫希を捉えたようだ。
「姫希……、この、ナイフを、抜いてくれッ……!」
「え……? でも……、このナイフ、抜いちゃうと……」
「いいッ! どのみち、これが抜けないと、僕は、魔法を使えない……ッ!! 早くッ!!」
零の剣幕に、姫希は頷く。
短刀を引き抜いた。
「ぐっ……!」
零の身体から盛大に血が噴出した。
彼は素早く、回復魔法を使う。
姫希も手伝った。
やがて傷口が閉じ、血が止まった。
零は一華にも回復魔法をかけた。
一華は、まだ四式の支配下にあるのではないか、という心配は姫希の杞憂に終わった。
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