第四章三話

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 彼女も意識を取り戻し、不思議そうに辺りをきょろきょろと見回す。 「あ、あれ……? お兄ちゃん……と、姫希さん? 私、あれ……?」 「一華ッ!」    バッと、妹に零は抱きついた。 「えッ!? おにいちゃ――兄さん……? どど、どうしたんですかッ!? 急に抱きついてきたりしてッ!?」    一華はしどろもどろになり、うろたえている。 「う……く……ッ!」 「にい、さん……? 泣いてるの……?」 「違う……、違うんだ……」    首を振る零。  彼は涙を流していなかった。  泣き方を知らない、泣くことを許されない咎人のように、ただただ、震えている。  だけど姫希には零が泣いてるように見えた。  小さな子供のように、泣きじゃくっている子供のように。  一華は零をあやす。  母親が子供をあやすように、彼が落ち着くまで頭を撫で続けた。  その光景は姫希の踏み入れない領域だった。  ほんの少しだが、一華に対し嫉妬心を滲ませながら二人を見つめていた。
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