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彼女も意識を取り戻し、不思議そうに辺りをきょろきょろと見回す。
「あ、あれ……? お兄ちゃん……と、姫希さん? 私、あれ……?」
「一華ッ!」
バッと、妹に零は抱きついた。
「えッ!? おにいちゃ――兄さん……? どど、どうしたんですかッ!? 急に抱きついてきたりしてッ!?」
一華はしどろもどろになり、うろたえている。
「う……く……ッ!」
「にい、さん……? 泣いてるの……?」
「違う……、違うんだ……」
首を振る零。
彼は涙を流していなかった。
泣き方を知らない、泣くことを許されない咎人のように、ただただ、震えている。
だけど姫希には零が泣いてるように見えた。
小さな子供のように、泣きじゃくっている子供のように。
一華は零をあやす。
母親が子供をあやすように、彼が落ち着くまで頭を撫で続けた。
その光景は姫希の踏み入れない領域だった。
ほんの少しだが、一華に対し嫉妬心を滲ませながら二人を見つめていた。
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