第四章十三話

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 零は覚悟を決めて、理事長に吶喊する。  駆けだした直後、理事長の姿が消失する。  眼前に彼が現れ、零の腹部に強烈なブローを浴びせた。  零は不自然なまでに後方――宙に浮き上がる。  理事長もまた止めとばかりに、後方へ落ちていく零に向って飛んだ。  この高さから叩きつければ、零も無事とて済まない。  そう思って蒼時は零に迫ったのだろう。  だがそれは――間違いだ。 「これで終いだ、零!!」    零は全神経を理事長に集中させる。  彼の一挙手一投足に目を配り、筋肉、呼吸、瞳孔の動きすら把握する。  零はある異変に気付いた。  流れる時間がスローモーションに感じる。  そう。  まるで時が停止したように。  時の止まった世界にいるような、奇妙な感覚だった。  これがアスリート達がごく希に体験する〝ゾーン〟と呼ばれる領域なのだろうか、と零は思う。  理事長の拳が肉迫するが、すんでの所で躱す。  蒼時は舌打ちしながら、階下へと落ちていく。
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