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第四章十二話
姫希はいまほのかに青白く光る溶液に浸されていた。
意識は白濁し、現実と夢の狭間の間に漂っている。
混濁する意識の中、男の声が耳朶に響いてきた。
『もうすぐだ……。もうすぐ娘が生き返る……。私のかわいい娘。私の半身を、魂を分け与えた分身が、私自身の手で甦る……』
抑圧された声だったが、声音に高揚感が含まれている。
興奮が隠しきれていない。
貴方には奥さんもいたんじゃないの?
奥さんは貴方の大事な人じゃないの?
無意味だと知りつつも、姫希は男に問いかける。
返答はないかと思いきや、男は驚きをまじえつつ返事をした。
『彼女は私にとってかけがえのない大切な〝道具〟だ。
自分の半身を産み出す大切な機能を果たす機械のようなもの。
道具は壊れてしまえば意味を成さない。取り替えた方が余程効率がいい。
彼女は最早私にとってはどうだっていい存在に成り果てている』
ひどい、と落胆する。
貴方には人に対して〝愛〟を感じたりはしないの? 誰かを慈しんだりする感情は持ち合わせていないの?
『あるさ。私が娘を切望するのが正に〝愛〟だ。この狂おしいまでに誰かを求める想いを愛とは言わずなんという?』
それは……エゴです。自己満足な一方的な押しつけ。
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