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その日は雨が降っていた。
夜空を覆う、分厚い雨雲。雨足は強く、時折雷を響かせる。六番地区の通路をひとりの男が雨に打たれながら走っていた。
「参ったな」
男の言葉は激しい雨音にかき消される。すでに服はびしょ濡れ、体にぶつかる冷たい雨は徐々に体の体温を奪っていく。男は仕事の帰りだった。
雷が一瞬光をともす。その時、男の視界に何かが映り込んだ。
「なんだ?」
男はついつい立ち止まってしまった。そこは、帝都に三つあるうちの一つの墓所。雨に濡れ、何かが視界に映り込んだのも気のせいと思いこもうとし、止めていた足を動かそうとした。
ザクっ、ザクっ
雨音に紛れながら、そんな音が聞こえた。よくよく耳を澄ませると、確かに聞こえる。
男は軽い好奇心で、墓所へと続く鉄格子に手をかけた。
墓所の土は雨を含み、足を置いただけでズブズブと沈んでいってしまう。底なし沼にはまってしまい、抜け出せなくなるのでは、などというありもしない考えが頭をよぎった。
素早く足を動かし、音源のもとへと急ぐ。激しい雨で視界は悪く、分厚い雲により隠された月明かりもない。あるとしたら極希に光りをともす分厚い雲から降り注ぐ雷のみ。
一般墓地を抜け、騎士専用墓地に出る。普段ならばあまり入らないような場所なだけに、男の好奇心は最高潮を迎えていた。
ザクっ、ザクっ、ザクっ
徐々に高まるその音。好奇心で早まる心臓の音が耳の隣でなっているような、そんな錯覚。
近くに雷が落ち、辺りが一瞬照らされる。
男は今まできた道を全力疾走で駆け戻った。雷で照らされた瞬間に男が見たものは。
重なる死体に囲まれながら、雨に濡れ、笑顔で墓を掘り起こす女の姿だった。
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