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「それじゃあ、二人とも元気で」
「ああ、お前もな……無事に帰ってこいよ」
「お気をつけて」
ガルム・オルスタニアはクオリスと拳を合わせ、そのまま振り返ることなく自国の騎士団が作り上げた道を歩いていった。
「大丈夫かな、オルスタニア君」
「大丈夫だろ、なんてったって勇者だからな」
その背中をクオリスとアリスの二人は見えなくなるまで見送り続けていた。執事である男性が二人に頭を下げ、道を作り上げていた騎士団たちとともに勇者ガルム・オルスタニアの後を追った。
「いっちゃったね」
「これからあいつは『聖国』に戻って仲間とともに南の大陸に旅立つんだ、いろいろ準備もあるんだろ」
「さびしい?」
眠たげな瞳がクオリスの姿を捕らえる。
「俺は俺のやれることをやるさ」
「それでこそ直線馬鹿」
小さく微笑んだアリスを横目に、クオリスも自分についた埃を叩き落とす。手には二振りの刃折れの銀の摸擬刀。それをなんとなしに握り締め、その感触を楽しんだ。
「あ、そういえば学園長が呼んでた」
「じいさまが!?速く言え馬鹿っ!!」
「……馬鹿っていったほうが馬鹿」
通路を駆け抜けるクオリスの背中に投げかけるアリスの言葉が彼に聞こえるはずもなく。彼女の口から生まれたその言葉は空気の中に静かに溶け込んでいった。
エルドニア騎士養成学園、その学園から排出された数多くの騎士はエルドニア帝国の歴史にその名を刻んでいる。現在の学園長、ジョシュア・クォーツは零れ落ちてしまいそうなため息を必死に飲み込んでいた。
「学園長、いかがですかな」
目の前に座る男性は、実力と言うよりもその頭脳で騎士団の上層部にまで上り詰めた男だ。テーブルの上におかれた箱、いきなりそれを出し何の用件も言わずに先ほどの第一声である。
「ふむ、わしにはよおわからんのお」
孫であるクオリスにかっこいいと言われて以来手入れを怠ったことのない自慢のひげをなでながらジョシュアはとぼけたようにそういった。
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