プロローグ

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 ジョシュアにとってこの状況は好ましくない。目の前の男の子供が騎士養成学園に入学しているはずなのだ。そして成績が芳しくない。騎士養成学園での成績が卒業してから騎士団で出世していけるか決めると言っても過言ではない。  目の前におかれる箱、十中八九賄賂であろうことがジョシュア出なくてもわかるであろう。何がまずいかと言うと、先ほどアリス・サイスに孫であるクオリス・クォーツの呼び出しを頼んだのである。  いま、この状況をみたら、孫がどのようなことをしでかすかが手に取るようにわかってしまうのがつらい。 「クォーツ殿、これは気持ちです。私個人からエルドニア騎士養成学園への寄付金も用意しております……ここまで言えばわかりますね?」 「さっぱりわからんのお」  偉そうにふんぞり返る二回りも下である男を見つめる。さすがに場慣れしているだけはあるのか、ジョシュアの眼光におびえることなく、不快そうに眉をひそめる。 「戦場から退かれたせいでお年を取られましたかな?」 「年はとるものじゃ、望もうが望むまいが」  徐々にだが、男性がイラつきを隠せなくなってきているのがジョシュアにはわかった。できるだけ早く目の前の男にご退場願いたい。 「それでは単刀直入に言わせていただきます、私の娘の成績の改ざんをお願いしたい、金ならいくらでも積もう」 「……なに?」  自分の部屋だと言うのに、室内の温度が何度か下がったように感じた。ジョシュアは何かをあきらめたように自身の部屋の入り口に視線を向ける。そこには青筋を浮かべたクオリスの姿が存在した。 「……学生が学園長室に何のようだ?さっさとでてい―――」  男が言葉を言い切ることはできなかった。男がいた場所には拳を振り切った状態のクオリス、そして遅れて聞こえてくる何かが本棚に衝突する音。ジョシュアは自分の頭を抱えた。  騎士養成学園学園長ジョシュア・クォーツの孫であるクオリス・クォーツはまがったことが大嫌いだった。
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