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「はああぁぁぁあ……」
「どうしたじい様」
男は捨て台詞をはきながら学園長室から逃げていった。おそらくこのまま居座ればもっと恐ろしい目にあうことを予感したのだろう。深いため息をこぼしたジョシュアに不思議そうにたずねるクオリスに、またため息をこぼす。
「クオリスよ、お主が殴ったのは騎士団の上層部にいる男じゃ」
「それがどうかしたのか?」
本当に不思議そうにしているクオリスに頭痛を覚え始める。
「あの男から買った恨みはおそらくかなりの大きさじゃ、確実と言っていいほどお主の出世の邪魔をしてくるだろう」
「別に俺は出世がしたいから騎士団に入るわけではないぞ」
「わかっておる、だがな?おぬし一人の問題ではないことを理解せよ。お主のパートナーにも迷惑がかかるのだよ」
諭すような口調のジョシュアに、クオリスも考え込むようにあごをなでる。エルドニア騎士養成学園では、望むものは卒業と同時に騎士団への入団が確定する。その際、騎士養成学園時代の成績、人柄などから配属される部隊が決まる。
エルドニア騎士団では二人一組での活動を推奨しているため、騎士養成学園入学時点で二人一組を決められ、連携に重点を置かれたカリキュラムとなっている。よって、パートナーと配属される部隊は確実に同じになるのだ。
「アリスの家は平民じゃ、彼女は家族を支えるためにできるだけの出世を望むであろう」
「今回の俺のせいでアリスの出世の未来をつぶしたってことか」
クオリスとアリスはペアである。幼少期からの知り合いだった二人は、自然と二人組みを組んでいた。
「謝ってくる、じい様の話って?」
「どうだった、『聖国』の勇者は」
「強かった、俺も負けん」
「ほっほっほ、ならばよい」
それだけ言うとクオリスは学園長室を後にした。走り去っていくその背中を笑みを浮かべながら見送る。振り返り、散らばった本たちを見てため息がこぼれた。
「わし、ぼけちゃう」
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