3人が本棚に入れています
本棚に追加
「アリスっ!」
「んー?」
学園内を走り回り、教室へと向かう後姿を見つけたときには、すでに日が沈みかけていた。すでにこれほどの時間が過ぎていたのか、とクオリスは息を整えながら思っていた。
「どうしたの?」
眠たげな瞳で首を傾げてくるアリス。頭の中に浮かぶのは謝罪の言葉のみ。
「とりあえず、カバン取りにいこ」
「あ、ああ、そうだな」
何かを察したのか、アリスからの申し出をありがたく思いながら受け取る。オレンジの夕日が差し込む校舎を教室に向け、二人並んで歩いていく。
「さっき、じい様のところに行ってきた」
「うん」
「そんで騎士団のお偉いさん殴ってきた」
「ああ、なるほど」
「すまん」
「うーん、責任取ってもらわないとなー」
クオリスのことを理解しているからなのか、どのような事態になっているかもわかっているかのようにアリスは告げた。
「私をしかっり守りたまえ」
「おう、約束だ」
言葉少なくとも通じ合えるのは幼少期から築き上げてきた信頼があったおかげなのかもしれない。二人は静かに教室へと歩いていく。二人からは不安と言うものを感じられなかった。
どんな困難が襲い掛かろうと、隣を歩く人がいれば大丈夫、心からそう思っている二人は、何のためらいもなくお互いを信じる。
「出世はあきらめてくれ」
「ちょっと屋上に面かせ」
「え」
それから、追いかけっこが始まったのは言うまでもない。楽しげに走り回る二人を校舎内に残っていた数人の生徒たちは目撃していた。
「せんせークォーツ君って学園長の孫なんでしょ?評価とか甘甘なの?」
「あほか、クォーツの評価が一番厳しいんだぞ?ここまで厳しくするかと突っ込みを入れる教師が後を絶たなかったんだからな。それでも学年一位をキープし続けるんだから頭が上がらないよ」
「へーやっぱすごいんだね」
そんな会話がなされていたなんてことも知らない二人は、学園内を走り回る。長年学んできた校舎に別れを告げるように。
最初のコメントを投稿しよう!