そんな訳でやっちゃった

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電話もそこそこに別れの挨拶をして通話を切る。なんまり長いと通話代が大変な事になる。そしたらカップ麺の中身を二等分しなければならなくなる。 そんなこんなで俺が住むマンションが見えてきた。携帯で、マンションで辞書を引くとアパートという説明文が出てくる。なめてんのか。 「ん?」 マンションの入り口に佇むフードマン。ちょっとした未来視が出来た訳じゃないが嫌な予感がする。 早足で前を通り過ぎ、マンション入り口のドアに手を掛ける。布の擦れる音が聴こえた。 バッ!と振り返ると目前に迫るフードマン、片手には包丁が握られている。突き出された包丁をかわしてその腕を脇に挟む。片足を軸にして一回転するとフードマンはあっさり引っ張られて転ぶ。 「その顔見せ――っ!?」 倒れている隙にフードを取って顔を見ると、息を飲んで絶句した。 なんで、あんたがここに……? 混乱が思考を埋め尽くし、その混乱を押さえ込み、思考を切り替える。言葉にすると簡単な作業だが、訓練された軍人でもない俺には難しいものがあり、致命的な思考の停止が起こった。 ドスッ。擬音にするならこの言葉だろうか。実際には音もなく胸に突き立てられた包丁、すぐに喉の奥から込み上げてくるものがありそのまま吐き出すとその正体は粘着質な血液だった。 激痛はない、ただし熱い。きっと余りの痛さに脳が痛覚を麻痺させたんじゃないだろうか。医学は聞き齧った程度しか知らない、もっと言えばテレビ番組から仕入れた知識しか分からない。 包丁を抜かれ、血が止めどなく流れ出る。 グサッ。と今度は腹を刺された。すぐにまた抜かれ、萎えた脚から崩れ落ち、ビクビク痙攣を起こしながら冷たいアスファルトに仰向けに倒れた。 これは一体、なんの冗談だ? 血を吐き出しながら体は生きようと浅い呼吸を繰り返す。腹の次は脇腹、脇腹の次はまた胸。致命的に執拗なまでに何度も何度も包丁を突き立てられる。 「あんたが悪いのよ。あの人はあんたばかり気にして、私の事はちっとも見てくれなくなった!でもこれで、あの人はまた私を見てくれる。私だけを見てくれる。アハ、アハハハ、アッハハハハハハハハ――」 笑いながら馬乗りになり繰り返し繰り返し包丁を突き立てる。グジュッ、と何度も突き立てられて形の崩れた肉からそんな音が聞こえる。 視界が歪む。命が消える。俺を産んだ母の手によって、俺の命はこの世から消え去っていった。
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