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窓を開けた。外から入ってくる空気が心地いい。過去は変わらないのだからいくら後悔しても無駄でしかない、正月なのだから心機一転、切り替えていこうと思った矢先のことだった。
窓から入ってきた空気がヌゥと言葉にしにくい重みをおびた、息苦しさを感じて思わずハンドルを強く握ってしまう。よく見てみると見覚えのない道に入ってきていた。どこかで道を間違えた? いや、そんなわけない、親戚の家まで何度も往復したことのある慣れた道だから間違えるわけがないのだ。考え事をしていて脇道にそれたということもないだろう。重苦しい空気に耐えきれず私は開けたばかりの窓を閉じても、息苦しさは変わらない、中にこもった空気が重い。
握りしめたハンドルに力がこもり、アクセルを強く踏み込みそうになる。もしものときはすぐに止まれる覚悟を決めるべきだろう。何かがおかしい、よくわからない予感を感じ、どこかに引っ張られるような感覚があった。前だけは向いていようと景色を見ても見覚えない建物ばかりが見える。
ペタッ、音がした。
窓の外から何かが張り付く音がした。
ペタッ、ペタッ、音は二つまるで窓に二つの手が交互に張り付き動いているような一定の感覚をもっている。焦る気持ちをおさえてできるだけ前を向こうとする。耳には変わらずペタッ、ペタッと音がしてくる、近寄ってきている。だんだん大きくなる音に身体がガタガタと震え、交通安全の御守りがユラユラと揺れる。
ペタッ、ペタッ、コツンッ、
音が真横に並び、頭をぶつけたような音が加わる。恐ろしくて声もでなかった。何かいる。そこにいる。走行中の車に張り付く何かは私を見ている。
コツン、コツンと音が聞こえ、ペタッ、ペタッと動き回る。視界の片隅に入れないように前を向く、しかし、ペタッ、ペタッとまた、動き出した。真横だからよかったのに真正面に来られたら直視する事になる。ペタッ、ペタッと音が聞こえ目の前にそれは現れた。
ヒッと息が詰まる。そこにいたのは女だった。髪の長い女が車の外に張り付いて額をグッと押し付け、真っ赤に充血した瞳で私を睨みつけていた。ペタッ、ペタッと両手を動かす、恐ろしいのはそれだけじゃない、女は上半身しかなかった。下半身がないのだ。切断された部分からおそらく腸か何かだろう。デロリとはみだしていてユラユラと動く、
もう叫びだしそうだった。目の前が見えない、女が邪魔だ。
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