祟り道

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いつの間にかボロボロと涙が溢れてきた。怖い、とっても怖い。その睨みごむける瞳からは怒りの感情しか読み取れず、コツン、コツンと額を叩きつける音がまるでハンマーで釘を打ちつけたときと同じくらいに聞こえる。けっして強くはないのに、一定のリズムで聞こえる音が私をパニックに陥れる。頭の中にいくらでも響き渡っていく。 「ーーーーしね」 女は言った。コツン、コツンと額を叩きつけながら、 「ーーーーー死んでしまえ」 嫌だぁと叫んだ。車は止まらない、アクセルから足を外せない、どこに向かっているのかもわからずスピードを上げていく。ブレーキに足をかけなくちゃと思っても足が動かないどころかどんどん踏み込んでいく、女はニヤニヤ笑ったときだった。ユラユラと揺れていた交通安全の御守りが突然、発光し視界を塞ぎ女の悲鳴が聞こえ、 「止まれっ!!」 誰の声なのかわからない声が聞こえ、私は思いっきりブレーキをふんだ。ゴムの焼ける嫌な臭いとキキキキキッッッッ!!!!と車体が揺れた。シートベルトが身体に食い込み悲鳴を上げる。 車が止まる。女の姿はどこにもなかったけれど、窓にはくっきりと赤い手形が残っていた。夢ではない、現実だったんだと思うと放心状態になってしまった。 それから数十分後、警察官がコンコンと窓をノックする音に気がついた。人のよさそうな笑みを浮かべた警察官がなにかあったのですかと聞いてくる。よく見渡してみれば私は道の電信柱に衝突しそうな場所で止まっていた。道路にはブレーキをかけたときについたと思われる跡がくっきりと残っている。 私は警察官にことの顛末を話した。バカにされるだろうと思っていたけれど、警察官は私の話しを聞いて、うんうんと頷くとこう言った。 「あんた、そりゃ祟り道に入ったんだよ。よかったのう。無事に戻ってこれて日頃の行いがよかったからよ」 軽く事情を聞いた警察官はさらに説明してくれた。ここらあたりには祟り道、ようするに事故の多い道があるらしい、それを揶揄して祟り道と呼ぶらしかった。 「ほら、見通しのいい十字路で事故がよくあるとか聞いたことあるやろ? それと同じ、そっちのほうに引っ張られてしまうんだよ。お姉さんは運がよかった。ちゃんと戻ってこれた」 と警察官は自分のことのように喜んだ。きっと同じような事故がここで起こっているのだろう。警察官に連絡先を教えて今日は帰っていいことになった。
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