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ある寒い朝の日。
一人の女が、古ぼけたアパートの小さな扉を開けた。懐かしむかのように、中を見渡した女は「変わってないな」と呟き、さらに奥へと足を進める。うっすらと埃をかぶった部屋の中には、かつてそこに誰かがいた痕跡が残されていた。床に転がったカップや、汚れている服には目もくれず、女は何枚もの紙が積んである棚や、古新聞がスクラップしてあるファイルを眺めた後、少し顔を歪めこう言った。
「後、一仕事しなければ…。」
ほぼ同時刻、古ぼけた建物の屋根に座り、酒を飲みながら月見を楽しんでいた男のケータイが鳴った。男がケータイの受信トレイを開けると、メールには「確認した」の四文字。
男はそのメールを読んだ後、楽しそうに両手を広げ、月に向かって深々とお辞儀をすると、屋根の上からするりと飛び降りた。そのまま、音を立てずに着地すると、再びケータイを取り出し、
「昔の話なんて、忘れてしまった……か」
という言葉を発して、静かに暗い夜道を歩いて行った。
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