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「私の両親を奪われた事件だから……」
その回答が、男と夢霧を驚かせた。
黙ってしまった男に、少女は心の中でため息をつく。まただ。また、同情されるんだ。いつもいつもこの事情を言うと、皆が憐みの目を向けてくる。まるで、私を見下しているように。
「……生活はどうしているの?」
さっきから黙っていた夢霧が、口を開いた。
「おばあちゃんとおじいちゃんがいますし、何とかやっていけています。」
少女は言った。
そんな少女をじっと見ていた夢霧は、少し顔を和らげて言った。
「……いいよ。その事件を聞かせて」
急に態度が変わった夢霧に、思わず少女は顔を歪ませた。
「同情からですか?」
少女から出た小さな言葉に、夢霧は、
「私の自己満足のため」
と笑った。
その言葉を聞いて少女は首をかしげたが、男はすべてが分かっているらしくハァーっとおおげさにため息をついた。
「さ、はやくおいで」
夢霧はそんな二人に声をかけて、軽い足取りで元来た道を進んでいった。
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