闇へいざなうもの(一の3)

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「やれやれ、厄介なことになった……」 車から降り、恭平は今回の事件についての資料を読んでいたが、途中で読むのを止め呟いた。 ここはとある県の山の中にある集落。自然も多く、とてものどかな場所だ。いつもビルばかり見ている恭平にとっては心休まる風景だ。無論、事件の捜査で来たのでそんな余裕はないのだが。 「まったく、上層部もこんな厄介な事件を押し付けてくるとはな……」 彼はまたため息をつく。そもそも、この事件は昨日、雨井にある情報をもらった直後に上からこちらに回ってきたのだ。事件の概要などが書かれた紙の隅には『早急に解決すべし』と念を押すつもりか書いてある。 「……まあわざわざこちらに事件を回してもらっているから、文句は言えんのだがな。それにしたってこんな山村の事件まで持ち込んでくるとはな」 再び景色を見ていた恭平だったが、こちらに走ってくる足音に気づく。その足音は徐々に近づいてくると恭平の前で止まった。 「随分遅かったが、聞き込みはどうだった?秀一、薫」 呼ばれた2人、秀一と薫は持っていたメモ帳をめくりながら、2人同時に話そうとした。しかし、恭平はそれを手で制すると、 「俺は1人の声しか聞き取れない。秀一から話してくれ」 「はい。えっとー……、児童の失踪はたまに起きていたそうです。それでも失踪した子は必ず帰ってきてたそうですし、この集落ではあまり危険視してなかったそうです」 なるほど、と恭平が頷くと今度は薫が話し始めた。 「今回の児童の連続失踪は3日前からだそうです。失踪した子の母親が子供が学校から帰ってこないと。そこで村人たちが探したそうですがまったく見つからなかったと。その後、十数人が行方不明になっているらしいです」 2人の話を聞き、恭平は唸る。 「昔から何回か起きていて、そのたびに子どもは帰ってきていたのに、今回は帰ってこない……。ちなみに行方が分からなくなった場所は分かるのか?」 「はい、全員がその地点より前では目撃されているそうです」 薫が答えた。恭平はしばらく考えていたが、 「よし、その場所に行くか。薫、案内頼む」 「分かりました!」 そう言うと3人は車に乗り込み、その場所に向かった。
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