6人が本棚に入れています
本棚に追加
/97ページ
「ここが、桜黎町……。なるほど、確かに妖怪の気配が至るところからするわね」
夜、桜黎町の入り口に1人の少女が立っていた。彼女は紅色のドレスを身に纏い、扇子を手に持ち、口元に笑みを浮かべている。
彼女の近くには、1台の黒塗りの車が停まっていた。それは高級車で、何千万は下らない価値のものだ。車の運転席には初老の男性が、彼女が乗り込むのを待っている。
少女の視線の先には巨大な木。月に照らされたそれは桜のようで、花はほとんど落ちていて緑の葉が枝に付いていた。
「ふん、田舎町かと思ったけどなかなかいい所じゃない。これなら、……何?」
彼女が見た先に、巨大なこうもりと2つの人影が現れた。人影はそれぞれ男と女、少女とは同年代のようだ。男は素手だが、女は手に木刀を持っている。
一方こうもりは、彼らの数倍の大きさで大きな翼を羽ばたかせ、彼らに牙を向いている。
身構える2人を見て少女はふん、と鼻で笑うと、
「あの程度、私の能力でイチコロなのに……。まあ片づけてあげましょう!」
そう言うと彼女は扇子を広げるとそれで周囲を払った。すると近くにあった石ころがこうもりめがけて飛んでいき、当たった。
こうもりはこちらを向くと、怒りの表情で近づいてくる。先ほど戦っていた男女が焦りの表情でこちらに走ってくるが少女は意に返さず、
「妖怪風情が……、消え去りなさい!」
再び少女が扇子を払う。すると刃のようになった風がこうもりへと向かっていき、それを切り裂いた。
断末魔をあげ、塵となるこうもり。それを彼女は扇子を開き口元に持っていき見ていた。
先ほどの男女は唖然とした顔でこちらを見ていたが、すぐに男の方は険しい顔つきでこちらを見た。
無造作に整えられた髪、鋭い目、そして何より鼻についた傷が目についた。
「まったく、せっかく代わりに倒したのに……。車を出して、家に向かうわよ」
すると初老の男性は降りてきてドアを開けると少女は乗り込んだ。男性はドアを閉めると、すぐに車に乗り込み、発進した。
すぐに男女の姿は見えなくなったが、彼女は窓の外を見つつ、呟く。
「随分と、変わった町ね。妖怪も、人も」
月だけが町を、彼女の乗る車を照らしていた。
最初のコメントを投稿しよう!