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スーツの内ポケットに入れた携帯の着信音が響く。 チッ……心の中で舌打ちをした。 毎回毎回、本当にタイミングの悪い客だ。 この前は、飲んだ後に逆ナンしてきた女とホテルに着いた時だったな。 「はい。三浦です」 俺が電話に出たのを見届けてから、彼女は頭を下げて、来た道を戻ろうとしている。 いやいや、待てよ。何か用があったんじゃないの? 客先と話しながら、彼女を引き留めるにはどうしたらいいんだろうか。 「……畏まりました。失礼致します」 他に引き留める方法が思い付かなくて。 俺は、彼女の右手を握っていた。
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