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会社の前に停まっていたタクシーに乗って、小さく1つ息をつく。この時間なら間に合いそうだ。
「お客さん、ここの会社の人?」
「はい、そうです」
人の良さそうな恰幅のいい運転手が、バックミラー越しに話しかけてきた。
「うちの嫁さんがここのシャンプーじゃなきゃ嫌だって言うもんで、たまに買いに行かされるんですよ。でもね、そのシャンプーにしてから嫁さんの髪が綺麗でね」
「そうでしたか、それは良かったです。奥様によろしくお伝えください」
お礼を返しながら思い出したのは、彼女が愛用してくれているのを知った時のことだった。
戸惑わせて困らせて、赤くなる顔を見ては嬉しくなって……仕事中だっていうのに、理性を揺り動かされている気分だ。
その度に、彼女の潤んだ瞳には、戸惑っている俺が映る。
彩星だって嘘でも『好きだ』って言えば、簡単にキスさせたり、セックスさせてくれんだろ?
嘘でも、好きって言ってやれば、相手は俺じゃなくたっていいんだろ?
俺が欲しいんじゃない、彼氏が欲しいだけの女なんて懲り懲りだ。
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