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静かにスタートを切った車は、見慣れた街並みを後ろへと流していく。
途中で寄ったコンビニで、部長は私がよく会社で飲むアイスレモネードを選んでいて、それが余計に期待を膨らませると気付いているのかな。
「適当に買っていくから、先に戻ってて」
と言って、部長が車のキーを渡してきた。
「ごめんね。土曜の約束だったのに」
「いいですけど……」
私の計画が一気に白紙に戻され、いつもよりずっと可愛くしてきたかったのにと唇を尖らせる。
企画のイメージを膨らませようと思っていたから、気合いを入れてピンで止めていた跡が付いた前髪。服はデートというより通勤用だし、メイクも慌てて直した程度だ。
部長をチラリと見たら煙草を咥えたまま、運転している横顔に胸が高鳴った。
「……ただ、土曜まで待ちきれなかったんだよ」
部長から顔を背けて、助手席の窓から外を眺めてごまかす。今にも緩んじゃいそうな頬を、レモネードの甘酸っぱさで隠した。
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