しし殪る 膚を濡らす 小雪かな

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<季題> 小雪、併せてしし殪る <季節> 厳寒の冬 しし: 猪、または鹿。雌雄老若不問だが、牙や角等を始め体躯が勇壮強大であった雄を想起すれば、より趣深かろう。何れにせよ、昔日の雄姿虚しく、何らかの理由で衰弱してしまった個体を特に想念すべきものとする。 殪-る: たお-る。別綴に「斃-る」。「死ぬ」の意の下二段動詞終止形。 音韻から想起されよう通り、「倒れ(転倒し)」そして「頽れて(くずおれて、即ち死んで)」いく、として好い。その死が、冬の厳寒に凍えたが故か、冬の食糧不足に飢えたが故か、さもなくば老いか病かはたまた人の手の故かは、敢えて問わない。またその場所も不問。各自自由に想像せよ。 膚: はだえ。即ち、(「しし」の)皮膚。特に被毛に覆われたその下の皮膚を指す。展開して、「しし」の死を見る人の頬等を含め想起しても好い。 「表面性(皮相性)」や「気質・性質」の比喩はない。 を: 連体格助詞。対格。 濡ら-す: 「濡ら-す」の語自体が独立した単一動詞(古語現代語共通)だが、同時に「濡-ら(「濡-る」の未然形)+す(使役の助動詞)」、即ち現代語の「濡れさせる」の意で解釈することも可能。 今まさに絶命したばかりで体温のまだ残る中、最早振り払われることもなく付着し続ける雪が融解し、被毛から皮膚へと伝いながら濡らし(濡れさせ)ていく様を、想起すべし。さながら、涙雨ならぬ「涙雪」によって、厳粛苛烈な自然自らが今し方落とされた命を悼むかのような情景が現れよう。
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