しし殪る 膚を濡らす 小雪かな

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小雪: こゆき。即ち量の少ない(降り方の弱い)雪。その量の如何は、気象学上の通例によらず感覚的常識的なものとして好い。ただし、長時間降り続いても有意顕著に積雪しないものに限定。 この語はこの句の季題だが、字綴から転じて二十四節気の「小雪(しょうせつ)」を示唆する、との解釈は少々強引か。敢えて象徴的に「小雪(しょうせつ)」の解釈を適用するならば、この句は晩秋の句となる。即ち、老いや病を除けば必ずしも「しし」が衰弱しているとは限らなくなり、その死をもたらしたのは人為を含めた何かだと、より限定的な解釈を妥当させる必要が生じる。 かな: 哉。連語による終助詞。即ち、係助詞「か」の文末用法と、終助詞(及び係助詞)「な」の連語。「な」・「や」同様に文末で詠嘆を表し、近世以降は現代語まで、主に和歌・俳句の切れ字として使用される。 この句で仮名綴としたのは、漢字の連続を避けることで明示される「小雪」・「かな」の双方が、心悲しいながらも耽溺する感傷とは無縁な詠嘆を強調するため。「しし」の死を「涙雪」で哀悼しながら、その死をもたらした張本人であったかも知れない自然がそこに厳しく在り続ける様への、冷静な詠嘆。
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